2019年11月22日金曜日

公認会計士試験での統計学選択について

公認会計士試験の2次試験にあたる論文式試験では選択科目があって、統計学を選択することができます。90%以上が経営学を選択する中で統計選択は少数派ですが、私はそんな統計学を選択しました。その結果、本試験での換算得点は54.25で合格ラインを超えることができ、令和元年公認会計士試験に合格することができました。

公認会計士試験で統計学は数学得意な強者が選択するものと思われがちかと思いますが、そうではない者がほとんどイチから勉強して本試験に挑んだインプレをお送りしたいと思います。

統計選択となった経緯

最初から統計選択だったわけではなく、はじめは経営選択でした。
私は2014年目標で公認会計士試験の学習経験があります。その時は短答突破できませんでしたが、選択科目の勉強は進めて経営学のカリキュラムはひととおり受けました。
2019年度目標で勉強を再開するのですが、2018年12月に短答受けたときも経営学を選択していました。ところが12月短答に落ちてしまったので、次の5月短答の時に統計選択に変更しました。

経営学はファイナンスとマネジメントの両方を勉強しなければならず範囲が広く、なにより勉強が自分には楽しくなかったので変えたいなと思っていました。
社会人経験があると経営学は業務経験に関連していたり、昇格するときの研修などで経営について学ぶ機会があったりするので、マネジメントは有利だと思います。
ですが、経営学は論点によっては時代遅れに感じるものだったり、自分の考えと異なるものについても学習しなければならず、そういった論点ではモチベーションを保つのがしんどかったです。

もともと前職がITだったため、アクセスログを解析して集計したりすることが多く、IT業界でも統計学に注目されており今後習得していきたいと考えていたので、会計士試験を通じて学ぶことができれば一石二鳥だなと思い変更を決意しました。

統計学の学習について

12月短答に落ちたのを確認してから統計学に切り替えたので、12月短答の合格発表後である1月下旬からレクチャーを受けはじめました。ここが私の統計学とのファーストコンタクトです。通常は短答試験が終わった12月から学習を始めるので1か月遅れでのスタートでした。
統計学で使う教材は最初にテキストと問題集が渡されます。これが2冊で1cmもない厚さです。これに暗記項目をまとめた40ページくらいのポケコンが付きます。
5月短答が終わると論文試験に向けて総まとめレクチャーがあり、そこで過去問とテキストに含まれなかった論点が紹介された厚さ1cmくらいのテキストが渡されます。
全部でテキストや問題集は2cmくらいです。経営学に比べれば圧倒的に少ないです。
また、経営学は試験委員が変わるたびに学習内容が入れ替わるので試験委員対策のレクチャーがありますが、統計学の場合はほとんど毎年出題傾向に変更がないため、追加の講義もありません。

学習の進度はだいたいこんな感じでした。
  • 1月25日~2月26日 映像レクチャー受講(全14回)
  • 3月 基礎答練(5月短答直対と並行して受講)
  • 3月31日 大原論文公開模試① →換算得点41.30
  • 4月 統計学強化月間(総合問題と基礎答練)
  • 5月 短答に向けて租税と統計学は休み
  • 6月 直対答練
  • 7月、8月 基礎答練と直対答練の復習
  • 7月4日 TAC論文公開模試 → 換算得点46.6
  • 7月15日 大原論文公開模試② →換算得点45.43
  • 7月20日 統計検定2級受験 →合格(67点)
  • 8月25日 本試験 →換算得点54.25
勉強開始時点で統計学に関する知識はほとんどありません。
ちなみにひとつ前の記事でプログラムを使って合格者の集計をしてますが、あれは会計士試験の統計学には全く関連してません。あえて挙げるなら平均値を求めるところくらいです。
私は高専の電気工学科卒でいちおう理系だったから統計学でも学校で習った理系の知識や前職のITの業務経験が使えるだろうと思っていましたが、その考えは甘かったです。実際はほとんど使えませんでした。ほとんどゼロからのスタートです。
レクチャー聞きながらテキスト1回目を回したときはさっぱりわかりませんでした。理解しないまま1冊読み終えました。あとで復習でリカバリするのですが、なにから手を付けていいのかすらわからずに、Webで調べたり本屋で確率と統計の入門書を買ってみたりしました。
答練もひどいものでした。偏差値が50を超えたことは一度もなかったと思います。
答練を復習するにも5,6時間かかってました。

そんな状態のまま3月の1回目の公開模試を受けましたが素点10点というひどいものでした。
4月からは応用答練もはじまりましたが、講義で基礎が終わっていない人は受けても意味がないと言われたので受けませんでした。その代わり4月は統計学の強化月間として統計学を集中的に学習してます。テキストの読み込みと問題集の総合問題、そして基礎答練の復習です。統計学だけで1日10時間やっていた日もありました。結果的にこの4月の強化月間が勝敗を大きく分けたような気がします。

5月は短答に全振りしたので統計は全く手を付けていません。短答終わって統計学再開した時には二項分布の分散の式すら忘れてたので焦りました。

6月からは直対答練が始まりました。基礎答練終わってない人は直対答練受けても意味がない。基礎答練か直対答練かどちらかを完璧にすればよいと言われていましたが、幸い4月の強化月間のおかげでなんとかついていける程度にはなっていたので、全部受けました。
こちらも偏差値50を超えることは一度もありませんでしたが…
私は4月の強化月間のおかげで6月の直対答練の準備ができていましたが、5月まで短答に全振りして学習が進んでいない場合は、6月は基礎答練で固めて、直対答練を7月以降に解くという戦略が有効かと思います。

7月以降は基礎答練と直対答練の復習を中心にやっていきました。応用答練はまったく手を付けていません。

7月末に受けた統計検定2級は公認会計士試験の試験範囲とほとんど同じなので、自分の勉強の進度を確認するベンチマークのために是非受けることをおすすめします。自分で仕上がってきたなと思ったくらいの任意のタイミングでいいと思います。
全国各地に試験会場があってパソコンでいつでも受けることができます。申し込みから1週間くらいで受けられます。私が受けたときの試験会場は駅前のパソコン教室でした。
統計検定の勉強は全くしませんでした。会計士講座の統計学の教材だけで受けて合格点を取れたので、統計学の学習が進んでいれば統計検定2級は取れるでしょう。

8月上旬くらいに水道橋の統計学の先生のところに行っていろいろとレクチャーしてもらいました。進め方としては基礎答練と直対答練で問題ないとのこと。過去問は1年分くらいやっておいた方がいいと言われたので、本試験の1週間前くらいにH29年の過去問だけやりました。過去問の換算得点は52を超えました。

本試験は難しかったです。
答練よりも問題数が多かったです。解答用紙も8枚ありました。見たことないような問題もありましたが、なんとか書けるところは解答欄を埋めましたが、時間は足りなくて空欄を残したまま試験は終わりました。

これまでの答練の結果から統計学が足を引っ張るのは目に見えていたので、どれくらい踏みとどまってくれているのか、他の科目でどれだけカバーできるかという計算をしながら結果を待っていたのですが、結果は思いがけずに54.25でボーダー超え。答練であれだけ苦労していたのに、本番で初めて偏差値50超え。それどころかボーダーを超えて総合得点を引き上げていたのには驚きでした。

統計学選択の所感

なんだかんだで統計選択も苦労したけど、勉強量は経営学に比べると少ないと感じます。暗記することも少ないし、一度覚えてしまえばメンテナンスの時間は確実に少なくて済むと思います。
また統計学は直前期にやれることが少ないため、その分をほかの科目に充てることができると思います。
ですが、勉強時間が少なくて済みそうという理由だけで容易に飛びつくのは当然ながらおすすめできません。初学者であれば統計学でもがっつり勉強しなければいけないことはほかの選択科目と変わりありません。
勉強方法については先生が言っていたとおり、基礎答練か直対答練かどちらかを完璧にすれば合格点は取れると思います。完璧にするというのは満点を取れるということではなく、式を丸暗記するのではなく、なぜそのような式になのかであったり、それぞれの変数が何を意味するのかを理解することなので、そのレベルでの深い理解はけっこうしんどかったですが、その学習は本質的に理解していくことだったの覚えるのは楽しかったです。
経営学でも共分散を計算する問題がありますが、式を丸暗記だったので楽しくはありませんでした。でも経営学は覚えることが多いので時間がない5月短答生は丸暗記するしかない事情も理解できます。

統計学でいちばん怖いのは計算間違いや解答欄や解答方法を間違えるなどのケアレスミスです。
ジニ係数や分散・共分散を求める問題では計算方法は難しくないため統計選択の人はみんな知っているのでミスさえしなければ取っていきます。ですが計算量が多いので計算ミスが即命取りになります。
解答欄ミスでは、区間推定の最小値と最大値の符号を間違えて逆にしてしまったり、小数点以下の有効桁数を間違えたり、分数で答えるべきところを少数で答えるなどです。
単回帰分析で解答欄にαとβをそれぞれ記述する問題があったのですが、単回帰分析では先にβが求められるためαの解答欄にβの値を書いて間違えたことがありました。

統計学選択は数学強者が集っているというのは間違いないと思います。彼らたちにとって会計士試験の統計学は彼らが大学などで学んでいる、または学んでいたことと比べれば基礎的な部分なのでほとんど対策しなくても合格点が取れるおいしい科目なのです。それどころか直前期に過去問をちょっとやるくらいで満点近い点数をもぎ取っていくことでしょう。

そういう人たちがいるので、統計選択は平均点が上がるから分が悪いと思うかもしれませんが、文系だけど数学に抵抗がないとか自分みたいに統計学に興味があるというだけの人もいるので恐れずに飛び込んでみてほしいと思います。結果的に点数の開きは抑えられてそれなりに勉強すれば合格点は十分にとれる科目です。
数学得意な強者たちも満点近い点数とっても偏差値70を超えることはまずないということで嘆いていました。どういう思考と理屈なのかはよくわからなかったけど、そういうもののようです。

統計学は一度深いところまで理解してしまえばメンテナンスが少なくて済むので直前期の時間を有効に使うことができます。6月の直対答練を受けながら6月末までに深いところまで理解している状態にもっていけたら7月、8月の統計学の勉強量は減ってくるので租税法とかに時間を回したりすることができると思います。数学得意な強者でなくてもちゃんとやればその状態に持っていけます。5月短答組は時間との勝負なので、メリットが大きいです。

私は答練でも統計学に不安を抱えていたので、7月8月もがっつり統計学やっていました。この時にがっつりやったおかげでケアレスミスをだいぶ減らすことができました。

あと、公認会計士試験では選択科目は3日目のスケジュールになります。
3日目は午前中に企業法があります。企業法と統計学はまったく関連性がない科目なので、頭を理論から計算に切り替える必要があります。
これは前日の勉強でもいえることで、試験当日の順番通りに勉強すると企業(勉強)→統計(勉強)→企業(試験)→統計(試験)となるので、3回切り替える必要があります。
なので前日の勉強は統計から始めるようにして統計(勉強)→企業(勉強)→企業(試験)→統計(試験)とすれば切り替えは2回で済みます。
この辺は公開模試で感覚を確認してみてもらえればと思います。すんなり切り替えられる人であれば、気にしなくてもいいです。

私は40も過ぎたいい歳なので学習効率が悪かったけど、高校の数学を経験して大学でも数学をやっている学生さんや20代の若い脳であればもっと効率よく統計学を学習できると思います。

統計学の今後

統計学は今後のビジネスにおけるリテラシーになっていくと思います。AIやビッグデータ解析などで注目されているのももちろんです。
自社は関係ないと思っていたとしてもライバル会社がAIやビッグデータ解析で売上増になったりコスト削減になったりしたら我が社もやらざるを得ないということになるでしょう。
もっと身近なところでは、変なコンサルタントの怪しい統計に騙されないようにするために最低限の統計のリテラシーは必要になってくるでしょう。

IT業界を中心に統計学が注目されており、私の前職場でも統計検定を取得を推奨されているようです。
統計検定2級の範囲は公認会計士試験の統計学と同じ範囲なので、両方取得目指して統計学に興味を持ってくれる人が増えると嬉しいです。

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